エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
私は縮み上がったけど、朝峰さんは慣れたものだ。
意味ありげに目を細めただけで、「はい」と短く承諾を告げる。


純平さんは、「ふう」と声に出して息をついた。
そして、私に目線を動かす。


「朝峰はお前に、男の人相の確認を取りたいと言っている」

「え。人相……ですか」


私は彼の言葉を反芻しながら、朝峰さんに目を向けた。
彼は、「ええ」と笑みを浮かべる。


「でも、あの男の人なら、むしろ瀬名さんの方がしっかり……」

「尾け狙っていた男の方は、瀬名さんが確認してくれたので十分です。菅野さんには、例のあの日、東京駅を撮影した画像を見ていただきたい」

「!? 私、東京駅で、あの男の人を見ているかもしれないんですか?」


説明してくれた朝峰さんに、腰を浮かして問い返す。
彼は私をジッと見据えて、無言で一度だけ頷いて応えてくれた。


「っ……」


ひとり暮らしを始めて一週間経った頃、尾けられていると気付いたけれど、もしかしたら、もっと前からだったのかもしれない。
改めて、自分が犯罪に巻き込まれている実感を強めた。
今さらの恐怖が足元から一気に昇り詰めてきて、頭にまでゾワッと鳥肌が立つ。


脱力気味にストンとソファに腰を戻し、いやがおうでも湧き上がる震えを抑えようと、自分で自分を抱きしめた。
朝峰さんは、私が落ち着くのを待って、少しの間口を噤んでいたけれど。
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