エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
そのため、彼女がどんな様子で証言したか、見ていない。


「瀬名さんは、彼女はあの日上京したばかりで浮き足立っていたから、はっきり覚えていないと仰いましたが、なんと! 大島の近くに作倉らしき風貌の男がいたこと、記憶してましたよ」

「え……?」

「電車の乗り換え方法を訊ねようとして、最初に目に留まったのが、その男だったようです。でも、そのそばにいた大島に気付き、女性の方が声をかけやすい、と」

「……そうか」


ちょっと意外な気分で、俺は顎を撫でた。


「ただ、容貌はうろ覚えでした。顔を伏せ、ずっとスマホを操作していたとか。興味を持って観察したわけでもないし、はっきり記憶に残らなくて当然です」


朝峰は、俺を視界の端で窺っている。


「まあ、そうだな」


俺は、ネクタイを緩めて軽く上を向いて、「ふう」と息を吐いた。


「監視カメラの画像を提出させて、徹底的に洗ってみます。彼女を尾けた男と照合可能な、はっきり顔立ちがわかるデータが見つかるかもしれない」


朝峰はわかりやすく声を弾ませて、ふっと口角を上げた。


「……らしくないですよ、瀬名さん。何故、彼女に確認してもらうのを、渋ったんですか。怖がらせたくないとか、考えたわけでもないでしょう」
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