エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
咎めるような口調で探られ、無言で前を見据えた。


――朝峰の言う通り。
彼は昨日から何度も、歩に会って確認したいと言った。
しかし俺は消極的で、『彼女がはっきり覚えているはずがない』と濁していた。


もちろん、歩を怖がらせたくないだなどと、温いことは考えていない。
俺自身、何故と問われて、渋った理由が見つからない。
事件の解決が最優先なのに、朝峰が不審に思うのも当然だ。


上手い説明が見つからず黙ったせいで、車内に沈黙が漂う。
朝峰の方が先に痺れを切らし、「まあ、でも」と切り出した。


「菅野さん、一生懸命記憶を掘り起こそうとしてくれましたよ。男の身元がわかれば『普通の生活を取り戻せる』って、タブレットに目を凝らして」


肩を揺らし、くっくっと声を漏らす。


「それに、瀬名さんが愛玩するだけのことはある。純朴で可愛いし、そのわりにいい身体つきで……」

「おい、即刻記憶から抹消しろ」


彼の言葉に導かれ、着いて早々、俺たちの前に出てきた歩の姿を思い出す。
なんだって、あんな無防備に……。
俺は、忌々しい気分で舌打ちをした。
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