エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「そもそも、お前にここにいろと言ったのは、俺だ。出ていけとも思ってない」


そう言われて、私はおずおずと顔を上げた。
純平さんは、見たことがないくらい弱り切った顔をして、ガシガシと頭を掻いている。


「それに……お前のことを子猫ちゃんなんて言い方をしたのは、朝峰だ。俺はそんな風には言っていない」

「…………」

「……料理ができる分利口なペット、とは言ったが」


きまり悪そうに、ボソッと付け加えた。


「ひっ……酷っ」


鼻の穴を膨らませて抗議する私の前で、純平さんは苦く歪めた顔を手で覆う。


「お前は俺といるより、朝峰と一緒の方がメリットになると思った。発言の意図はそれだけだ。お前が自分の意志でここにいると言うなら、俺の方に異論はない。勝手にしろ」


早口で言い捨て、スッと立ち上がった。
再び私に背を向け、今度は振り返らずに、スタスタと階段の方へ歩いていってしまう。


「あ……」


私は胸元でパジャマをギュッと握りしめ、その広い背中を見送った。
……わかってはいたけど。


「ペット、かあ……」


彼の言葉を反芻して、肩を落とした。
迷惑だ、出ていけ、と言われなかったことにホッとしても、私が願う存在意義からは大きくかけ離れている現状——。


「……はああ」


私は、深い息を吐いてうなだれた。
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