エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「その立場を利用して、内側から懐柔していけば、少しは可能性が出てくるんじゃないかな」

「!? か、懐柔って、どうやって」


ギョッとしてひっくり返った声をあげる私を、「しーっ」と人差し指を立てて制した。
私も慌てて両手で口を押さえ、パーティションを見上げてコクコクと頷いてみせる。


「ペットロスって言葉もあるくらいだし、歩がいないと寂しいって思わせたら、大成功じゃない?」

「ペットロス……」


彼女の言葉を、自分でも繰り返してみるけれど……。
純平さんが、生活に癒しを求めてペットを飼うとは思えない。


ひとりで悠々自適なのに私がいて、不本意な偽装結婚生活の中で、無理矢理楽しみを見出した、そういうニュアンスの方が正解。
――むしろ、せいせいしたって思うんじゃない?


私は同意できずに、難しく顔を歪める。
私の思考回路を見透かしたのか、桃子もちょっと頼りなく眉尻を下げ――。


「と、とにかく」


取ってつけたような咳払いをした。


「甘いもの食べて、気分変えよう。それで残りの仕事、頑張ろう!」

「う、うん!」


定時まで、後二時間半。
気分転換のコーヒーブレイクで、沈んでる場合じゃない。
私も急いでミルフィーユを食べ始めた。
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