エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
逃がされる
朝、『直接捜査に行く』と電話してきて、どこかに直行した朝峰は、捜査会議が始まっても会議室に現れなかった。
大島の起訴以降、刑事たちの報告も目立った進展がなく、捜査は完全に膠着状態と言っていい。
俺は黙って耳を傾けていたが、徐々に不愉快な気分が強まり、口をへの字に結んだ。


捜査の進捗が芳しくないからではない。
昨夜からの苛立ちが、今もなお、尾を引いている。
歩が初めて俺に怒鳴りつけた言葉の一語一句が、脳内で不快なほどぐるぐると回っている。
その上、彼女との諍いの根幹にいる朝峰が、朝からずっと出払っているのも落ち着かない。


大事な捜査会議で、気が散るなんて、俺はいったいなにをしているんだ。
らしくない自分が腹立たしくて、口を手で覆う。


――昨夜の俺も、どうかしていた。
朝峰とコンビニに行って、浮かれて爆買いしてきた歩の話を聞いているうちに、心がささくれ立った。
言うべきじゃないとわかっていたのに、意志では抑えられずに次々と毒を吐いた。
その結果、飼い猫が獰猛に毛を逆立てた。


――歩があんなに怒るとは、思いもしなかった。
バカがつくほどお人好しの彼女に、そういう感情もあると、俺は思っていなかったかもしれない。
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