エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「朝峰。作倉はもう落ちている。東京駅と日本橋、ふたつの場所で採取した指紋が、過去の取引現場のものとも一致したことを突きつけ、完落ちさせろ」


作倉が口走る途中で、俺はインカムを使って、朝峰に指示を出した。


「え?」


彼は作倉を手で制し、肩越しにチラリと、こちらに視線を向けてくる。


「……瀬名さん?」


作倉の自白を途中で遮った形の俺に、周りの刑事たちが訝し気に呼びかけてくる。
取調室の朝峰は、意味深にふっと目を細め、作倉に向き直った。


「今、あなたは、この女性と我々の指揮官を見ていたことを認めました」


作倉が、グッと言葉に詰まるのを見て……。


「あとは、任せた」


俺は刑事たちの間を縫うようにして、部屋の外に出た。


「……くそっ」


ネクタイを緩めながら独り言ち、ガシガシと頭を掻く。
『終始俺には背を向けて』……歩とキスをしていたなどと言われては、事件に巻き込むのとは別の意味で始末書ものだ。


朝峰のあの目つきを見れば、俺が、作倉がなにを言うのを阻もうとしたかは、薄々勘付いている。
記録に残すことはしないはず……。


ここは任せて、俺は作倉の逮捕について、上官に報告しなければいけない。
警視監も、そろそろ出勤する頃だ。
腕時計で時間を確かめ、やや肩を竦めて捜査一課のオフィスに戻った。
< 199 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop