エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「っ……」


俺は玄関に靴を脱ぎ散らかして、廊下を駆け抜けリビングに飛び込んだ。
壁一面の窓ガラスから射し込む五月の強い日光に、一瞬目を眩ませる。
額に庇のように手を翳し、リビングを見回した。


確認するまでもなく、がらんとしたリビングに、歩の姿はない。
物音もせず、しんと静まり返っている。


「っ、おいっ……」


メゾネットフロアに続く階段に駆け寄ろうとして、ソファの前のローテーブルに置かれた小さなメモが、視界の端を掠めた。
ハッと足を止め、つかつかとローテーブルに歩いていく。
指先で摘まみ上げ、丸っこい文字で書かれた短い文章を目にして――。


「歩っ……」


弾かれたように、階段を駆け上がった。
歩が使っていた客室のドアを、ノックもせずに開ける。


ベッドもクローゼットも、綺麗に整頓されていた。
俺の心臓が、ドクッと不穏に沸き立つ。
肩を動かして息をすると、手から彼女のメモがひらりと床に舞い落ちた。


『お世話になりました。さようなら』


その場に立ち尽くし、ぼんやりとメモに目を落とす。
俺が留守の間に、歩は出ていってしまっていた。
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