エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
味噌汁の椀を口に運び、ズズッと啜るのを見て、俺は天井を仰いだ。


「せめて、俺にも呼びやすい名前つけろよ……」

「いいですよ? 純平さんは、今まで通り〝歩〟って呼んでくれて。でも、もれなく私も返事をします」


まるで、〝歩〟という名を猫と取り合って、張り合っているようだ。
これでは、子猫に呼びかける度に、無自覚のうちに彼女を欲していたことを思い知らされる。


――なんだ、この途方もない敗北感は……。
テーブルに肘をつき、ガクッとこうべを垂れる俺を、歩がクスクス笑った。


「ささっ。純平さんも温かいうちに食べてください。揚げたてですよ~」


言い負かされた屈辱感で、舌打ちしたいのを堪えてゆっくり顔を上げると、歩はコロッケに箸を入れていた。
『揚げたて』という言葉通り、サクッと音がする。


「いつも以上に、自信作なんですよ」


一口食べて満足そうに頷くのを見て、俺も深い溜め息をついてから箸を手に取った。


「……いただきます」


軽く手を合わせて、促されるままにコロッケを切り分け、口に入れる。
その様を、歩がジーッと音が出そうな勢いで見守っていた。


「ど、どうですか?」


『自信作』と胸を張ったわりに、俺の評価を気にして、身を乗り出してくる。
俺は無言でモグモグ口を動かし、ゴクンと飲み下してから、


「……美味い」


短く答えた。
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