エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
いや、曲がりなりにも警察だし、着信を無視することはないはず……。
二回、三回、四回とコールが続き、焦りと絶望で胸が潰れそうになった、その時。


『……もしもし?』


ものすごく訝しげな低い声が、私の耳に届いた。
目の前が拓けた気分で、「瀬名さんっ」と呼びかけてしまう。


『……は?』


彼の声から不審感は消えないけれど、私は「菅野です」と名乗って、再び歩き始めた。


「この間、危ないところを助けていただいた、菅野歩ですっ」


声が上擦りそうになるのを必死に抑え、手で口元を覆って早口で補足した。


『記憶にない。切るぞ』


返事はあまりにもつれない。
だけど、今切られたら堪らない!


「か、かく……え、Sの件で、瀬名さんの部下の新海さんに連れて行かれて」


辺りには、買い物客もいる。
人の耳を気にして、遠回しに説明した。


『……ああ。あの時の、腰抜け女か』


随分と酷い覚えられ方だけど、瀬名さんも思い出してくれたようだ。


『俺の名刺を悪用したら抹殺すると言っておいたはずだが?』


氷のような冷たい声で凄まれたけど、今は凍えている場合じゃない。


「助けてください! 追われてるんですっ」
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