エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
二十七にもなって、キスひとつで騒ぐことじゃないかもしれないけど、私は男性とお付き合いした経験がなく、デートはもちろん、男性とふたりで食事に行ったこともない。
当然、キスだって初めて。


なのに、あんな道端で。
注目されて、冷やかしの目で見られて……。
瀬名さんの奥様には申し訳ないけど、私だって可哀想じゃない!?


助けに来てもらったことには、感謝しかない。
でも、キスされたことは、憤慨していいはず。


「あ、あのっ! 瀬名さんっ」


精算を終えてタクシーから出てきた彼に、私はやや食い気味に呼びかけた。
なのに瀬名さんは、私の前を通り過ぎ際にチラリと一瞥して、


「入れ。ここの三十階だ」


それだけ言って、さっさとエントランスに歩いていく。


「あ。ちょっと……!」


私は猛然とダッシュして追いつき、彼の前に回り込んで、行く手を阻んだ。
瀬名さんは、ほんの一瞬虚を衝かれた様子で、目を丸くしたものの。


「退け。邪魔」


短い命令をして、グイと手で押しのけてくる。


「き、キスには、抗議したいです!」


私は退けられないように、両足を踏ん張って声を挟んだ。


「は?」

「奥様ご在宅でしょう? あんなキスされた後すぐに、どんな顔して。平気な顔でお邪魔できるわけないじゃないですかっ」
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