エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
自分で言ううちに興奮が強まり、頬がカアッと茹だってしまう。
瀬名さんは無言で腕組みをして、冷ややかな目で私を見下ろし、


「どんな顔もしなくていい。俺は独身で、過去にも妻はいないからな」

「っ、え?」

「二度言わせるな。さっさとしろ」


私を避けるように大回りして、重厚なドアを押し開け、エントランスに入っていった。


「え? え?」


私はパチパチと瞬きしてから、慌てて回れ右をして、先を行く広い背中を追いかける。


「で、でも。こんなすごいマンション……」


ほとんど小走りで彼の隣に並び、表情の変わらない横顔を見上げた。


「ひとり暮らしだ。文句あるか」


エレベーターホールに入り、じろりと睨まれ、


「いっ、いえっ!」


条件反射でブンブンと首を横に振った。
瀬名さんが、エレベーターのボタンを押す。
間もなく到着した箱に乗り込み、私は恐縮して首も肩も縮めていたけれど。


……ちょっと待って。
ひとり暮らしの男性の家にのこのこ上がり込む方が、よっぽどマズいんじゃない?


ハッと息をのんでも、もう遅い。
エレベーターは居住フロアに直結のようで、一気に三十階まで上昇を始めた。


「せ、瀬名さんっ」


できる限り隅っこに身を寄せ、やや上擦った声で呼びかけた。
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