エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
なんだかいろいろ悔しくて、スマホを持つ両手がプルプルと震える。
だけど。


「……この人、ずっとこっち向いてる」


無意識に、ポツリと呟いた。
歩いていた時と同じく、落ち着きなくスマホを弄りながらも、顔はこちらに向けていて、チラチラと目線を上げる。
つまり、ずっと私と彼を見ていたということ。


「っ」


瀬名さんが来てくれるまでの恐怖を思い出し、条件反射でゾクッと身震いする。
もしかして……。いきなりのキスは、この男性の顔を動画に残す目的で、気を引いておく必要があったから――?
ハッとして息をのむと同時に、頭上からふっと影が落ちてきて、手からスマホを抜き取られ……。


「知らない人間から物をもらって、覚醒剤の常習犯と間違われてしょっ引かれたのは自業自得だが、それでお前が組織に目をつけられ、危険に晒されては、俺が困るんだよ」

「え……」


私の目の前に立った彼の美しい顔が、不愉快そうに歪み、凄みを増す。
なんだかんだ言っても、瀬名さんはやっぱり警察だ。
電話した時は、交番に行けなんてばっさり斬られたけど、こうしてちゃんと心配してくれる。


感動して、胸がきゅんとした。
なのに。


「一般人を巻き込む事態になったら、俺の責任能力を問われる。これまで築き上げた輝かしい経歴に傷がつく」
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