エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
嵌められる
生まれてから二十七年暮らした地元を出て、ローカル線と新幹線を乗り継ぎ、地味に長い三時間の旅路を終え――。


「んーっ!」


東京駅のホームに降り立った私は、一泊分の荷物を詰めたボストンバッグを地面に置き、堪らない開放感で両腕を突き上げた。
私の後から出てきた乗客が、私を避け、わざわざ振り返りながら、階段に向かっていく。
微妙に笑われているのを感じて、身を縮めた。


高校の修学旅行以来、久しぶりの東京。
私が生まれ育った街とは、行き交う人の多さと空気、温度感が遥かに違う。
これからは、私もここで生活するんだから、慣れていかないと……。
改めて意識を強め、ボストンバッグを持ち上げて、そそくさと歩き出した。


人の流れにのまれて階段を下りたら、目指していたのとは違う、こぢんまりした改札口に着いた。
ここから出ても、乗り換えできるだろうか。
私は駅員さんを捜して、きょろきょろと辺りを見回した。
だけど、自動改札横の窓口に駅員さんはいない。


誰か他の人にと思っても、改札内は旅行客や出張らしきサラリーマン……荷物の多い人ばかり。
みんなせかせかと先を急いでいて、声をかけて足を止めてもらうのも気が引ける。


ふと、太い柱の前にいる、黒いジャンパーで黒縁眼鏡をかけた背の高い男性が、目に留まった。
片手を柱について寄りかかり、もう片方の手で一心不乱にスマホを操作している。
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