エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
邪魔になる……かな。
でも、ずっとそこから動かないから、足を止めることにはならない。
そう判断して、思い切って近付いてみると、男性がいるのと同じ柱の影に、三十代後半くらいの女性を見つけた。
斜め掛けにしたショルダーバッグに、小さな紙の手提げバッグと軽装だし、旅行客ではなく、見送りに来た人じゃないかと考えた。


ということは、多分東京在住の人。
交通手段にも詳しいと、期待できる。
私は迷わず、女性の方に歩いていった。


「あの」


声をかけると、女性がピクッと肩を動かす。


「え?」


不審そうな目を向けられ、私は条件反射でシャキッと背筋を伸ばした。


「突然お声がけして、すみません。乗り換え方法がわからなくて。教えていただけませんか」


女性から漂う警戒心を払拭しようと、声のトーンを明るくして説明する。


「このホテルに行きたいんですが……」


そう言いながら、トレンチコートのポケットから取り出したのは、赤坂見附にあるホテルのマップだ。
引っ越し先のマンションに荷物が搬入されるのは明日で、今日はこのホテルに一泊する予定でいる。
女性は私の手元を覗き込み、「ああ」と相槌を打った。


「丸ノ内線ですね。この改札から出ても行けますよ」


すぐ先の自動改札を指差し、道順を親切に教えてくれた。


「ありがとうございます。助かりました」


ホッと息をついて、笑顔でお礼を言う。
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