エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「野菜がなくて、付け合わせが作れなくてすみません。今度はもっとちゃんと……」

「いただきます」

「……どうぞ」


身を乗り出した途端、両手を合わせた礼儀正しい挨拶で阻まれ、すごすごと座り直した。
純平さんは、特段表情を変えずに、コロッケに箸を入れる。
口に運ぶまで見守り、私は無意識に唾を飲んだ。


「あの……お口に合いますか。コロッケもどきですけど、味は悪くないんじゃないかと……」


大学受験で、第一志望の合格発表を待っていた時のような緊張感の中、審判を待つ。


「…………」


純平さんは、眉ひとつ動かさない。
男らしい喉仏がごくんと上下するのを、食い入るように見つめていた私に、


「……美味い」


そう言って、左手に茶碗を持つ。


「よ、よかった」


心の底から安堵して、私はホッと胸を撫で下ろした。
それでやっと、自分でも箸を取った。


「いただきます」


純平さんと同じように両手を合わせ、食事の前の挨拶をしてから、かきたま汁に口をつける。
そして、本日一番の力作、コロッケに箸を入れた。


ほくほくに茹でたじゃがいもを丁寧に潰し、時間をかけて飴色に炒めた玉ねぎのみじん切りとツナを加え、塩胡椒で味付け。
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