エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
女性は、何度か首を縦に振って応じて、


「東京で新生活を始める、新社会人さんですか?」


最初に声をかけた時の、尖った警戒心が嘘みたいに、柔らかい表情で問いかけてきた。

「い、いえ!」


新社会人ではない。


「異動、なんです。新年度から、東京勤務になって」


間違っているところだけ訂正すると、女性が「あら」と口に手を遣った。


「すみません。お若く見えるので、まだ大学生かと」

「あ~……よく言われます」


女性が申し訳なさそうに言うのを聞いて、ぎこちなく笑って繕った。
童顔で、実年齢より若く見られるのは慣れている。


二重目蓋で、目尻が下がり気味の大きな目。
形は悪くないけど、低い鼻。
ぽってりとした小さな口。
全体のバランスは悪くないものの、美人にはほど遠く幼い顔立ちだ。


身長百五十七センチとやや小柄のため、大人っぽいロングヘアが似合わない。
ふんわりと柔らかい、茶色くカラーリングした髪は、鎖骨にかかるくらいのミディアムスタイルだ。


総合的に、私の見た目が人に与える印象は、ハムスターとかウサギの小動物、よくて猫といったところ。
初対面の女性に、学生と間違えられるのも仕方がない。


「それじゃ、まさに今ここから、新しい一歩なんですね。……これ、どうぞ」


女性はしみじみと言って、手にしていた手提げの紙バッグを私に差し出した。
< 7 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop