エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「そうか。……進捗があったら、すぐに報告を」


それだけ言って、踵を返す。
朝峰は、そこに立ち尽くしていたけれど、


「瀬名さん」


再び呼びかけてきた。
歩調を緩めなくても追いついて、俺の隣に並ぶ彼を、チラリと一瞥する。


「あの男、どの筋からの情報ですか」


力のこもった強い目で被せられ、ピクッと眉尻を上げた。


「人物の特定に時間がかかっているのは、警察のデータベースに記録が残っていないためです。瀬名さんの予想通り、マエはない」


そう――。
売買組織に関係しているとしたら、まだ警察が尻尾を掴んでいない、自由度の高い構成員。
俺はそう判断して、朝峰に、過去の取引現場を収めた画像データによる人物照合を命じた。
その結果、鮮明とはとても言えない、何百という画像のほんの数点から、男とよく似た背格好の人物がマッチした。


せいぜい、見張り役かなにかだろう。
しかし、クロに近いグレーに染まりつつある以上、男の身柄を確保するまでは、歩の保護を解くわけにいかない。


それに、クロと決まれば、たとえ末端構成員でも、ミッドナイトの完全壊滅に繋がる情報を引き出せるかもしれない。
大島の聴取が思うように進まない現状、どんな些細な情報でも喉から手が出るほど欲しい――。
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