エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「え?」


反射的に足を止め、きょとんとして見上げる。
その途端、目の前に、黒いふたつ折りの皮手帳をぶらんと突きつけられた。
近すぎて焦点を合わせられず、私はパチパチと瞬きをした。
写真入りの身分証よりも、その下の金色のエンブレムのような物に目が行く。


「……え」


実物を見たことがないから、本物かどうかはわからない。
でも、こういうシチュエーションは、映画やドラマで何度も見たことがある。


「警察の方、ですか?」


目を丸くして問いかけると、男性は手帳を畳み、「ええ」と言いながら上着の内ポケットに収めた。


「何点かお伺いしたいことがあります。お忙しいと思いますが、署までご同行願えますか」


言葉遣いは丁寧だけど、私を見下ろす瞳には、有無を言わせない力が漲っている。
警察に話を聞かれるようなこと、私、なにかしただろうか?


「ど、どういったことでしょうか」

「ですから、署でお話しします」


おどおどと質問を挟んだものの、取りつく島もなく一蹴されてしまった。
私はなにも悪いことはしていない。身に覚えもない。
でも、警察手帳を突きつけられ、『署にご同行』と言われて拒否したら、多分その方が問題だろう。


「……はい」


腋の下に嫌な汗を掻き、カラカラに渇いた喉に声を張りつかせながら、応じるしかなかった。
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