東方終焉物語
__ペル目線__

「__嘘でしょ…何してるのよ…」


今,目の前で起こった事は現実なのだろうか。
私の館で働くメイドが,【友人】に攻撃をされている。

先程迄笑って話していた,彼女が攻撃を受けて崩れている。

「ッ…許せない…あの子に…《娘》に何をするのよ…!」

ギリギリと激しく鳴る奥歯。
それと同時に高鳴る鼓動。
最早これを止める人は居なかった。



___10年前___

あの時,私はまだまだ幼かった。
道行く人に喧嘩を売り,ボロボロに負けては館に戻り恨む毎日。
そんな日々の中,貴女は現れた。そう…

黒く輝く月の下で,どれだけボロボロになろうとも向かってくる【人間】。

「…人間,よね?どうしてやられないの?」

『巫山戯るな…私をあの下等な下々と同じにするな!吸血鬼風情が!』

人間を下等,と言った。そして彼女が持っている能力…武器…私は元いた世界,幻想郷で出会った1人のメイドを思い出す。

「貴女…咲夜…じゃないわよね?髪…黒くなかったし…」

『如何にも…私はその咲夜の闇の化身…闇の姿と言うべきかしら…』

成程,彼女の体から溢れる黒いオーラは闇か。
尚も向かってくる彼女を避け,転倒した所にその上に乗っかる。

「気に入ったわ,貴女…私の召使いになりなさい。ちょうど召使いが居なくて困ってたのよ」

私の言葉に戸惑いを見せる彼女。しかしもうボロボロで抵抗する力も無かったのだろう,分かりました,と小さく頷きそのまま気を失う。

「ったく…手のかかる小間使いだわ」




_____________
_____________
___________


あれから10年。手塩を掛けて育てて来たあの子は私の娘同然。

私が唯一,素で居られるのは彼女の前でだけ。否…彼女を含めた【家族】の前でだけ。

そんな彼女が,私の目の前で,傷付けられている。

どうにも我慢は出来なかった。


漆黒に輝く翼をはためかせ,【友人】の逃げていった先に向かって猛スピードで飛んで行く。

「許さないわ…娘を…縷々を,傷付けるなんて…覚悟しなさい!」


【友人】が逃げていった先は血の後が点々と続く。そして,劈くような血の匂い。

跡を追い探したその先に…【彼女】は居た。


「見付けた…覚悟しなさい!銀!」

まさに攻撃をしようと振り被ったその時,彼女の前に現れた人物を見て動きを止める。


「…レオ…?」

私の前で話すレオは何処か表情が掴めず,呆れた顔か真顔…たまに見せる笑顔しか知らない。

そんな彼が…彼女の前で涙を流している。

『…んで…なんでだよ…なんで何も言ってくんないんだよ…』


強さしか見た事のない彼が流す涙,そして…大切な事に気付く。


「銀の方が…重症じゃない…ゼータの攻撃はそんな強力では無かった,それに…いつもの銀なら避けられる程度だった筈…なのに何故…!?…それに…」

銀が関わっているとなれば,レオは必ずその場に姿を現していた筈。銀のピンチの時も,操られた時も,暴走した時も。

いつも彼は彼女の前に姿を現し,救っていた。

そんな彼が…今回は姿を出さなかった,いえ,出せなかった…?


様々な考察が頭をよぎる。
そして聞こえた,彼女の微かな声。


「…これで…やっと…いける,んだな…」


途端に全てを察した。彼女はわざと,縷々達に攻撃を仕掛けたのだ。自身に深手を,負わせる為に…


「…何でよ…何で…一人で抱えるのよ…!」


ポロポロと頬を伝う涙。後ろから肩に手をかけられ振り向くと,先程迄戦っていた3人が其処に居た。


「貴方達…分かっていたの?」

『お嬢様,私はある程度の能力の知識は分かります。…彼女が,銀が何を背負って生きて来たのか。彼女の能力を…よくお考え下さいませ』

彼女の能力…日々身体能力が上がる程度の能力。まさか…


「そんな…そんな,事って…」


縷々達に促され,その場をそっと離れる。
この場は…最期の刻は,彼女の愛する人と2人で居た方が良いだろう。

劈くような血の匂いに噎せ帰りそうになりながらも,帰路につくのであった_____
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