身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
プロローグ
曇天は月を隠し、地上の明かりを受けてぼんやりと白んでいる。
今にも雪が降り出しそうな寒さの中、椿は弔事にも使われる色無地に外套を羽織り、男の住むマンションを訪れた。
玄関に通されてすぐさま、脇に抱えていた外套を捨て置くと、着物が汚れることも気にせずその場で膝を折った。
「申し訳ございませんでした!」
声を張り上げ、床に手をつく。大理石のひやりとした感触が触れた指先から伝わってくる。
椿にとっては人生初の土下座。
この程度で許されるのなら安いものだ。両親も喜んでくれると、椿は自分に言い聞かせる。
謝罪の内容は姉の不義。
才色兼備と謳われた姉は、この〝財界の若き帝王〟と呼ばれる名家の長男と婚約関係にあった。
しかし、姉はあろうことか婚約者を放り出し、別の男と駆け落ちして姿をくらましてしまった。
いずれにせよ、椿本人にとってこの土下座は不条理極まりないものだ。
「顔を上げなさい」
冷淡な声が振ってくる。ゆっくりと視線を持ち上げてみると、男は腕を組みながら冷ややかにこちらを見下ろしていた。
今にも雪が降り出しそうな寒さの中、椿は弔事にも使われる色無地に外套を羽織り、男の住むマンションを訪れた。
玄関に通されてすぐさま、脇に抱えていた外套を捨て置くと、着物が汚れることも気にせずその場で膝を折った。
「申し訳ございませんでした!」
声を張り上げ、床に手をつく。大理石のひやりとした感触が触れた指先から伝わってくる。
椿にとっては人生初の土下座。
この程度で許されるのなら安いものだ。両親も喜んでくれると、椿は自分に言い聞かせる。
謝罪の内容は姉の不義。
才色兼備と謳われた姉は、この〝財界の若き帝王〟と呼ばれる名家の長男と婚約関係にあった。
しかし、姉はあろうことか婚約者を放り出し、別の男と駆け落ちして姿をくらましてしまった。
いずれにせよ、椿本人にとってこの土下座は不条理極まりないものだ。
「顔を上げなさい」
冷淡な声が振ってくる。ゆっくりと視線を持ち上げてみると、男は腕を組みながら冷ややかにこちらを見下ろしていた。
< 1 / 258 >