身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「彼女に危害を加えたのはどなたですか」

その冷ややかな声色に、報道陣はザッと一歩うしろに後ずさった。

「質問を続けるのでしたら名刺をください。後日、正式な抗議とともにお答えさせていただきます」

財界の帝王とも呼ばれる権力者に抗議すると宣言され、質問を続けられるふてぶてしい人間はいなかった。

人混みが割れ車への道が開き、その中央を仁は椿の肩を抱いて歩き始める。

「歩けるか?」

足を引きずる椿を見て歩けないと判断したのか、仁は椿を横抱きにして持ち上げた。

報道陣がざわつき、椿も「仁さん!」と張り詰めた声をあげる。この状況で女性を抱きかかえればそれこそ格好のゴシップだ。

仁は気にする様子もなく椿を助手席に運びドアを閉めると、自身も運転席へ回り込む。

リポーターのひとりが、仁を挑発しないようにおずおずとマイクを差し出した。

「そちらの女性とはどういったご関係ですか……?」

仁は運転席のドアに身を滑り込ませながら、牽制のごとく厳しい眼差しを報道陣たちに向ける。

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