身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「彼女は恋人です。一般女性ですので報道については配慮願います」

それだけ告げると仁は運転席のドアを閉めた。

車外は騒然としていた。ドアを閉めた後も「砂羽秋乃との交際を否定されるのですか!?」「それは二股ではないんですか!?」などの詰問が漏れ聞こえてくる。

それらをすべて無視し、仁は車を走らせた。

どこへ向かっているのか、なにを考えているのか、怒っているのか呆れているのか。

まったく語ることのないまま仁はハンドルを握っている。

「あの、仁さん……」

おずおずと切り出すと、仁はため息とともに気だるく前髪をかき上げた。

「せっかく写真を撮られるのなら、いつもの椿らしい着物がよかったんだが。残念だ」

どこか的を外した返答に、椿はポカンと口を開く。

「……いえ、そうではなくて。よかったんですか、私のことを恋人だなんて言って」

「事実を言ったまでだ。本当は婚約者と言いたかったんだが、一応君のことを考えて配慮した」

「……でも」

感情の読み取れない仁の横顔から視線を外し、うつむいて着物の地紋をじっと見つめる。

「仁さんは、あの女優さんと結婚しようとしていたのでは……」

だからこそ、椿を妊娠させてくれなかったのではないのか。恐る恐る切り出すと、仁の目がちらりと椿に向いた。
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