身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
通された部屋は、客室としては最上階に位置するエグゼクティブフロア。

カードキー付きのエントランスを抜けると、リビングとプレイルーム、寝室が連なる広々とした客室に通された。

当然椿はこんな豪華な部屋に泊まった経験などないし、そもそもホテルに来ること自体いつぶりか。思わず状況も忘れてほうっと息をつく。

仁はスタッフにドリンクと甘いものをお任せで注文した。

スタッフが部屋を出てふたりきりになったところで、仁は椿をソファに降ろし、客室に備え付けられていたスリッパを差し出した。

「なにも持たずに来てしまったな。後で秘書に持ってこさせるか」

仁はそう呟いて正面のソファに腰を下ろし、唯一持ってきた携帯端末を操作する。

秘書への連絡を終えたのか、端末をシャツの胸ポケットへとしまい、ひとつ息をついた。

「明後日、記者会見を開く予定だ。内容は当主交代。現在、祖父の名前で多くの会社を経営しているが、それらが父に引き継がれる。伴い、俺もいくつかの会社の取締役に就くことになる」

当主の交代、それが意味するところといえば――椿はハッとして口元を押さえる。
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