身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「もしかして、お祖父様の容態が……?」

仁は腕を組んだまま静かに目を伏せ、肯定する。

「病の影響もあって認知症が進んでいるんだ。経営者としての判断はもう下せないだろう」

椿はどう声をかけていいのかわからず、沈黙した。

話には続きがあるらしく、仁は「それで、だ」と一呼吸置いて切り出す。

「あの報道についても釈明しようと考えていた。あの報道はうちの会社と芸能事務所が手を組んででっち上げた広告だ」

「……はい?」

椿は唖然として目を見開いた。

あれが広告? そりゃあ目立ちはするが、熱愛スキャンダルといったらデメリットの方が多いだろう。

仁は肩を竦めて苦笑した。

「話題作りだよ。彼女が出演する新作映画のプロモーションも兼ねている。清純派アイドルのイメージを覆したい狙いもあったんだろう、苦肉の策ってヤツだ」

「でも、仁さんの方にはなんのメリットも……」

「売名だよ。顔が売れれば企業名も売れる。そんな手法、バカげていると反論したんだがな。俺の婚約破棄を聞きつけた伯父が、相手がいないのならばかまわないだろうとGOを出したらしい。まったく、いい迷惑だ」

苛立った様子で仁は言う。マスコミとは縁のない椿には、にわかには信じ難い経営戦略だった。
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