身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「でも……あの、写真は……」

「彼女と会食に行ったのは事実だ。ふたりきりではなく、うちの役員も同席していた」

仁は額に手を当て、己の行動を反省するように沈痛な面持ちをする。

「……この際だから正直に言うが、彼女が俺の車の助手席に乗る写真は本物だ。自宅が近かったこともあって家まで送り届けた。……軽率だったと思っている」

椿が無意識のうちに険しい表情になったのを見て、仁はすかさず「だが――」と言葉を続ける。

「キスをしている写真は偽物だ。俺と似た顔のエキストラを使ったらしい。そんな写真を捏造すること自体、俺は初耳だった」

仁の握られた拳から後悔の念が伝わってくる。仁自身も、脇が甘かったと悔やんでいるのだろう。

「この強引なマーケティングに俺も父親も腹を立てている。伯父は近々、責任を取らされる予定だ。まったく、本当にまいるよ。釈明するにしても、うちの会社が捏造したことは公にできないし、なんと言い訳したらいいか」

額に手を置いてふうと息をつく。

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