身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「……嫌だったに決まっているじゃありませんか! 私は結婚の約束を信じていたのに! 子どもをちゃんと産んで仁さんの助けになりたいと思っていたのに……なのに……」

だから仁が子どもを作る気がないと知ったとき、椿は自分の価値を見失った。

自分は姉よりも女優よりもずっと下にいて、仁の隣に並ぶ権利はないのだと知らしめられた。

「私と結婚する気がないのなら、きちんとそう言ってください。私では相応しくないのだと」

初めて椿が仁に対して、強い眼差しを向けた瞬間だった。

仁は真剣な顔になり、椿の心の奥底を覗き込むかのようにじっと見つめる。

やがて仁はゆっくりと口を開いたが、その目には切なげな感情が宿っていた。

「……逆を考えたことはないのか? 俺が君に相応しくないと」

「え?」

「君はまだ若く、才能と可能性に満ち溢れている。これからなんにだってなれるっていうのに、なぜそんな小さな枠に収まろうとするんだ?」

仁がなにを言っているのかさっぱりわからず、椿は眉をひそめる。才能? 可能性? 自分のどこにそんなものがあるというのか。

「意味が、よく……」

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