身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「では問うが、なぜ菖蒲が君を羨み、あんな嫌がらせをしていたと思う?」

「羨む? 嫌がらせ?」

ますます椿には理解ができなかった。菖蒲は出来の悪い妹に呆れこそすれ、羨んでなどいない。

椿が頭に疑問符を浮かべていると、仁はあきらめたようにため息をついた。

「なにもわかっていないんだな」

もしかして責められているのだろうか? いっそう椿は困惑し、仁の言葉をなんとか解釈しようと目線を漂わせる。

「言い方を変える。君は実家の店を救うために俺に嫁ごうとしている。仮に店の資金が潤沢にあったなら、君は俺と結婚しなくても済む」

「……そんな仮定の話をされても」

椿は首を大きく横に振る。店の経営不振、援助の必要性、それらはふたりを繋ぐ前提条件であって、なければ話が進まない。

「君が謝罪に来たとき、憐れだと思った。自由にしてやりたいとも」

椿が困惑するのを無視して、仁はその〝仮定〟の話を続けていく。

「もしも、俺が君を妊娠させてしまったら、君は二度と俺から逃れられなくなる」

「でも私は、あなたの子どもを産むために――」

「後継ぎに執着していた祖父は退いた。お伺いを立てる必要はなくなったんだ。もう急いで子どもを作る必要もない」
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