身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿はガンと頭を殴られたような衝撃を受けた。仮定の話ではなかったのだ。とっくに前提条件は覆されていた。

結婚も跡取りも急ぐ必要はない。椿は用なしになってしまったというわけだ。

「援助はこれまでとは違った条件で検討する。みなせ屋は潰れないよう取り計らおう。だから――」

つまり、仁は椿と手っ取り早く縁を切りたいのだろう。援助と言う名の手切れ金を支払ってでも。

「そんなこと……急に……言われても……」

椿はもう仁の妻になる心づもりでいた。生涯、夫を愛する覚悟ができていたというのに。

「酷い……」

思わずぼろりと涙がこぼれ落ちる。

はっきり言ってほしいと言ったのは椿自身だ。だがこんな惨めなフラれ方をするとは思ってもみなかった。

『相応しくない』でも『愛せない』でもない。『もういらない』とは。

椿の涙を見て、仁が血相を変えてソファの隣にやってくる。

「違う、椿。君が傷つく必要はない。君を否定したわけじゃないんだ。自由になれたと喜んでほしい」

握られた手を椿は振り払った。どうせ遠からず解かれる手だ。

椿が目を伏せると、大粒の涙が藤色の袖を濡らした。
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