身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿はドキリとして足を止めた。仁は明後日の記者会見で、婚約者の存在を公表するつもりらしい。

もちろん椿は一般人であるから、名前こそ公にはしないだろうが、それでも関係者には椿という存在が知れ渡ることになる。

「――ありがとうございます。そう言っていただけて助かります」

電話の主――おそらく父親は、手放しで了承したようだ。

ふと仁は振り返り、椿がリビングの隅でおろおろしているのを見つけると、こちらにおいでと手招いた。

「それと、別件ではありますがお願いがございます。明日の夕方、椿さんを連れ帰りますので、店を貸し切っていただけないでしょうか。今度は私に椿さんのお着物を仕立てさせてください」

椿がわずかな間隔を空けて隣に座ると、仁の腕が伸びてきて強く引き寄せられた。

顔を胸に押しつけられ、仁の温もりも香りも鼓動の音も全部をいっぺんに感じ取り、頭が真っ白になる。

「――ええ。菖蒲さんのお下がりは、どうも椿さんには馴染まないので」

受話口で仁がちくりと嫌みを言う。もう二度と菖蒲の服を着せるなという牽制だろう。

しばらくすると話がついたらしく、仁は通話を終えた。

「似合うじゃないか」

端末を胸ポケットにしまい、目が合ってそうそうニヤリと笑みを浮かべる。

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