身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「ありがとうございます……変ではありませんか? ワンピースなんてあまり着ないので」

「かわいいよ。髪型も、着物のときは必ずアップにしてしまうから、ダウンスタイルは新鮮だ」

仁が椿の髪を手に取り、指先で質感を確かめるように撫でる。眼差しはいつになく熱い。

「下ろしたところはベッドの中でしか見たことがなかったな」

椿の頬がカッと熱くなる。

「下ろしたわけじゃありませんよ、ほら」とバレッタを見せつけるも、仁は「へぇ」と笑みを深めただけで、意味深な眼差しは変わらなかった。

なんだか気恥ずかしくなり、椿は話題を逸らす。

「あの、両親はなんて……?」

「椿との婚約を公表すると聞いて喜んでいた。店の方は心配するなと」

「そうですか……」

なんてことない会話を続けているのに、仁の声はどこか艶っぽい。ふたりの空気が、いつもとは違う気がする。

違和感を放っておくこともできず、椿は単刀直入に尋ねてみた。

「仁さん。どうかしましたか?」

「いや。思いのほか体のラインが強調される服だったから、早く脱がせたいなと考えていただけだ」

「仁さん……本当にどうかしましたか?」

これまで仁は、ベッドの中でこそ甘い言葉を囁くものの、日常的に口説き文句を口にするタイプではなかったはずだが。

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