身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
暇つぶしにもならなかったことが申し訳なく、椿はしょんぼりとチェス盤を片付ける。

「椿にはこっちだな」

仁が取り出してきたのは、樽に剣を指すと黒ひげが飛び出てくるアレだ。

運しか使わないゲーム――椿に頭を使わせることはあきらめたのかもしれない。

「認めるのも悲しいですが、これなら対等に戦える気がします……」

交互に剣を指し、黒ひげが飛び出したら負け。

先行は仁だったが、まさかの一発目で黒ひげが飛び出し、ふたりは唖然とする。

「嘘だろ……」

「これはむしろ強運なんじゃありませんか……?」

次は一発目こそ免れたが、やはり仁が黒ひげをひいた。その次も。

とくに狙ったことをせずとも、椿は危機を回避していく。無欲さの勝利だろうか。仁はギョッとした顔をした。

「椿、いったいどんな運してるんだ?」

「ピンポイントで当てる仁さんの方がすごいんだと思いますよ?」

五回目の勝負。十五本目を刺した仁が黒ひげを飛ばし、仁はテーブルに拳をついて力なく項垂れた。

「ああっ……! くそ、どうしてだ! もう一回!」

「……もうやめません?」

意外と負けず嫌いらしく、仁は再戦の準備を始める。

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