身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「なにを企んでいたんだ、椿? 瞼に目でも書こうとしていたか?」

仁が狡猾な笑みを浮かべる。まるで悪事なんてすべてお見通しだといわんばかりに。

「まだ目を開けていいとは言ってません」

「俺の顔が見たいなら、目を開けているときに見ればいい」

それができないから目を閉じてもらったというのに。挑発するような強い眼差しに射竦められ、とても顔を観察している場合ではない。

結局は椿が罰ゲームを食らったようなかたちになり、「なんだかずるい」と漏らしつつ、大人しく仁の求めに従い目を閉じた。唇に温かな感触が触れる。

「なぁ、椿」

キスの合間に、妙にあらたまった声で仁が切り出す。

「……今後もこういったことがあるかもしれない。俺の立場は人から注目される」

沈鬱な声に驚き目を開けてみると、真摯な瞳が椿を見下ろしていた。

「これからは、ひとの目を気にするような生き方をしなければならない。先に謝っておく。すまない」

ホテルから出られないことを言っているのか、あるいは、報道陣に囲まれたことを申し訳なく感じているのか。

椿はこくりと頷いて「かまいません」と答えた。仁と一緒になると決めた時点で腹を括らなければならないことはわかっていた。

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