身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「椿はこういうのが着たいのか?」

「ここまで気崩したいとは思いませんけど……あ、でもコレはアリだと思います」

椿が開いたページには、『オトナ可愛いモダン着物』と題された特集が組まれていた。

ホワイトとオリーブ色のヨーロピアンな草花模様、要所に散りばめられているゴールドのレースが現代的でかわいらしい。

シルエットとしては王道だが、テキスタイルとしてはかなりチャレンジしている。

「みなせ屋の購買層って、大半が五十代以降なんです。十年後、二十年後のためにも、もっと若い世代を開拓したいなって」

若者の着物離れは深刻だ。常連客に話を聞いても、子どもや孫はみな着物ではなくドレスやスーツに手を伸ばしてしまうと口を揃えて言っていた。

まずは若い世代に向けて和装の門戸を開かなければならない。

「関心を持つきっかけは、なんでもいいと思うんです。着物に親しんでさえいれば、四十代、五十代となったときに、年齢に相応しい王道の着物を着てみようって思ってくれるかもしれないから」

「椿は着物への興味だけでなく、経営や展望についても考えているんだな」

仁がソファの隣に腰を下ろす。その眼差しは優しく、喜んでいるようにも見えた。

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