身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
みなせ屋につくと、両親が店の前で待っていた。ハイヤーから降りてきた仁に深々と頭を下げて出迎える。

「お騒がせして申し訳ございませんでした。随分とご心配をおかけしたことと思います」

仁も責任を感じているようで、一連の騒動について頭を下げて謝罪した。

両親は「とんでもございません」「こちらこそ椿がお世話になりました」と畏まり、ふたりを店の中に案内する。

二階にある畳敷きの間に向かうと、彩とりどりの反物が置かれていた。

華やかな桃色から、山吹のようなはっきりとした黄色、緑みがかった青など様々な色味が並んでいる。

きちんと椿の肌の色との相性を考えてくれたようで、藤色や白縹、桜鼠のような繊細な色みは除外されていた。パッと華やぐような彩度の高い色が多い。

「ご指定の色にできる限り近い色を集めました。仕立ててすぐに着られるよう、薄物や単衣向きのものを中心に選んでおります」

「ええ。感謝します」

父の言葉に仁は満足そうに目を細める。どうやら色のチョイスは仁があらかじめしておいてくれたらしい。

「椿、どんな色が着たい? 桃色の着物はたくさん持っていたね。黄色や緑色は?」

仁がいつもより柔らかな口調で話しかけてくる。父の前でする余所行きの喋り方だが、以前よりもぐっと表現が豊かで、声の裏に愛情を感じた。

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