身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
第六章 どうしても譲りたくないもの
「よくも平然と顔を出せたものだな!」
その日の昼。パート従業員の西島にみなせ屋を任せて一時帰宅した両親は、菖蒲の顔を見て激昂した。
父が居間のテーブルにドンと拳を叩きつける。
「困っているだろうと思って戻ってきたのよ。式も迫っているでしょう? 先月は仁が記者会見で婚約発表もしていたじゃない。当の私が行方不明だっていうのに」
菖蒲は涼しい顔でクスクスと笑っている。婚約者に不義を働いて別の男と駆け落ちしたことに罪の意識などまったく感じていない表情で。
「ニュース見たわよ。椿が私の着物を着て映っているのを見て笑っちゃった。モザイクかけてもらえてよかったわね。あれは婚約者の不在を周囲にごまかすためのカモフラージュか何かだったのかしら?」
どうやら菖蒲は婚約が破棄されたとは思っていないらしい。
まさか妹が身代わりで結婚することになったとは、夢にも思わないだろう。
母はいたたまれない表情で姉妹を見つめ、父親は腕を組んで目を閉じ、怒りをかみ殺した。
「式はもう中止になった。京蕗さんとは、椿が結婚する」
「……はぁ?」
涼しかった菖蒲の表情が初めて不愉快そうに歪んだ。