身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「椿が結婚? 仁と? いったいなんの冗談かしら。そんなの向こうの家が許すわけないじゃない。こんなお子さまと」

腕を組んで侮蔑を込めた目で椿を見下ろす。

椿はびくりと震え上がったが、なんとか唇をかみしめて菖蒲を睨み返した。ここで『お子さま』であると自分まで認めてしまったら、仁に失礼だ。

椿の態度に以前とは違う印象を受けたのか、菖蒲は「……嘘でしょう?」とぴくりと片眉を上げる。

「菖蒲。会見をきちんと見なかったのか。お前を見初めた前当主は、もう引退されたんだ」

父の言葉に菖蒲は大仰に手を広げて訴える。

「お父さん、まさか私がいないからって、今度は椿を京蕗家に売ったの!?」

「京蕗さんが椿でいいとおっしゃったんだ」

「っありえないッ!! 椿に京蕗家の嫁が務まるわけないじゃない!」

珍しく菖蒲が声を荒げた。これまでちくちく嫌みを言うことは多かったけれど、感情を剥き出しにすることは少なく、椿は困惑して菖蒲と父の口論を見守る。

「もとはと言えばお前が駆け落ちなんぞしたからだろう! 今さら帰ってきてなにを言う!」

< 160 / 258 >

この作品をシェア

pagetop