身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
――きっと京蕗家に嫁いでも、デキる嫁として器用に立ち回るんだろうなぁ……。

椿ではじたばたしてしまうかもしれない。もちろん、何事も最大限頑張るつもりではあるが、ときにその足掻きは人を見苦しく、みっともなく見せてしまう。

不器用を自覚している椿は、菖蒲の余裕と品のよさが羨ましいと、どうしても感じてしまうのだ。

かくして久方ぶりの家族団らんとなった。

父は見るからに不機嫌で、誰の顔も笑ってはいなかったけれど、以前から笑顔の絶えない家庭というわけではなかったから、こんな食卓でも椿は懐かしく感じた。

夕食を終え、家族が代わる代わる風呂に入っている間に、椿はこっそりと外出用の麻の着物に着替え家を抜け出した。

仁のマンションの前でタクシーを降り、コンシェルジュカウンターに向かう。

部屋まで案内してもらうと仁はすでに帰宅していて、先ほどまでスーツを着ていたせいか、襟元を開けたシャツにトラウザーズのままで応じてくれた。

「こんな時間になって悪い」

「いえ。私の方こそ」

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