身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
しかし、その言葉は突然頭を撫でてきた仁によって制される

呆然としていると撫でる手が止まり、椿の輪郭をなぞるように指先が滑り落ちてきた。

「俺は椿と一緒になると決めた。今さら覆したりしない」

「仁さん……」

指先が首筋で止まり、椿の体を引き寄せる。椿は抗うことなく仁の胸元に収まった。

「椿がどうしても俺を嫌だと言うのなら、考えもするが?」

からかうように尋ねてくる仁に、椿は慌てて首を横に振る。

「言わない! 私、そんなこと言いません!」

しがみつくように仁の胸に顔を埋めると、仁は穏やかな声で吐息を漏らした。苦笑しているみたいだ。

「そんな不安そうな顔をするな。君はすぐ人に流される」

見上げれば、涼やかな、でも慈愛に満ちた表情の仁がいる。

「他人の心ない言葉に耳を貸すな。先回りして落ち込むんじゃない。目の前に見えるものだけを、俺だけを信じろ」

仁は自らソファに寝転がり、その上に椿を載せる。

ずっとこらえてきた不安が溢れ出てきて、椿の目にはじんわりと涙が滲んだ。

仁の傍にいたい、それがワガママなのだとしても、もう堪えることができなかった。

この強い想いを止める術を、椿は知らない。

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