身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「なんのこと?」

とぼけてみると、「夕べの電話、聞いていたでしょう?」と菖蒲は不敵な笑みを浮かべた。

「最初から仁は私のものだった。それを横からかっさらって我が物顔するなんて」

「それはお姉ちゃんが別の人と駆け落ちしたから――」

「駆け落ちじゃないって言ったでしょ。それに、その件はもう仁から許してもらっているの」

え、と椿は混乱する。それが夕べ、電話で話し合った末に出た結論なのだろうか?

しれっと戻ってきて再びよりを戻すなど、そんな都合のいいことを仁が受け入れるとは思えない。

なにより、仁は『椿と一緒になると決めた』と言っていた。今さら椿との結婚を覆すつもりはないと。

「仁さんがそんな簡単に許すはずない」

「許すわよ。だって仁はずっと私のことを愛してくれているもの。これは理論じゃなく、感情論なの」

驚いて返す言葉を失くす。愛があればどんな愚行も許せてしまうだろうか。

自分だったらどうだろうと椿は考えを巡らせる。

たとえば仁が結婚前に数カ月間姿をくらましたとして。

いなくなってごめん、愛している、結婚しよう、そんな甘いことを囁かれたら、拒める自信はない。

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