身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
いつも冷静で理知的な仁も、愛に溺れたなら同じように甘い決断を下してしまうかもしれない。

「ほかでもない仁自身が、私と結婚することを望んでくれているの。大人しく身を引いてくれないかしら」

まさかという思いに苛まれ、椿は黙々とモップがけをする。

菖蒲は反物を整理する手を動かしながら、嘲笑うかのようにふふっと喉を震わせた。

「あんた、仁の気を引きたいがために妊娠しただなんて嘘をついたらしいわね」

ハッとして床に落としていた視線を上げる。嘘ではない、そう椿が言い返す前に、菖蒲の冷ややかな眼差しが椿に突き刺さった。

「そりゃあ妊娠したなんて言われたら婚約破棄なんてできないわよね。仁は優しいもの」

ドキリとして言葉に詰まる。

椿の『妊娠した』というひと言が、仁の退路を断ったことには違いない。

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