身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
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菖蒲が帰ってきた――その報告に仁は驚きこそしたものの、取り立てて騒ぐほどのことでもないと判断した。

今さら椿との結婚を反故にするなどありえない。これは政略結婚ではなく、仁と椿、双方の意思によって決められたものなのだから、他人に左右されるいわれはない。

そもそも、そうころころと婚約者を変えられてはたまらない。

菖蒲も式を目前にして、別の男と駆け落ちするような非礼が簡単に許されるとは思っていないはずだ。

しかし、妹を揺さぶる意地の悪さは相変わらずのようで、菖蒲が帰ってきたというその日のうちに椿は仁のもとを訪ねてきた。

『そんな不安そうな顔をするな』

菖蒲が戻ってきたことで自分は捨てられると思ったようだ。胸に抱き丁寧に声をかけて椿の不安を取り除いてやる。

そんなとき、椿が思わぬことを口にした。

『あのね、仁さん。私、妊娠したみたいなの……』

さすがにこれには驚いた。避妊をしなかったのだから不思議でもなんでもないのだが、人の体はこんなにも易々と愛を享受し育んでくれるものなのかと。

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