身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「とにかく、君も聞いたとは思うが、椿と結婚することになった。あまりいい気はしないだろうが、これも身から出た錆と思って受け入れてくれ」

まさかやり直したいと言われるとは思わず、仁は頭が痛くなる。今さらそんなことを要求してくる菖蒲のふてぶてしさに眩暈がした。

結局、この女性は他人のものを奪いたいだけだろう。だったら最初から姿をくらまさなければいいものを。

通話を終えようとした仁だったが、菖蒲がふふっと上品に笑みをこぼしたのを聞いて手を止める。

『……椿に私の代わりをさせて満足?』

菖蒲の辛辣なひと言に、仁は押し黙った。

『昔から椿のことが気に入っていたものね。でも、あなたと結婚すれば、あの子は夢を捨てざるを得ない。知ってる? あの子、みなせ屋を継ぐよりデザインに興味があるみたいよ』

「今は店の仕事に誇りを持っているようだが?」

『それはキャリアのひとつにすぎないわ。お客様と直にやり取りする中で見えることも多いだろうからって、ひとまずみなせ屋に就職するよう両親が説得したのよ。今後別の道に進むにしろ、今の経験は必ず役立つからって』

椿はみなせ屋で接客経験を積んだ上で、別の仕事に転職するつもりだったのだろうか。着物の雑誌を見て目をキラキラさせていたことを思い出す。

椿が本心を押し込めている可能性は充分にあるなと、仁は眼差しを険しくした。

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