身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
『でも、あなたと結婚をすれば、みなせ屋を継がないわけにはいかなくなる。あの子、まだ二十五歳なのよ? 小さな店に押し込めておくには早すぎる年齢だと思わない?』

菖蒲の言うことはもっともで腹が立った。

仁を愛し、結婚したいという想いもまた椿の本心なのだろう。

だがその影で椿が夢をあきらめようとしているのなら、それは止めてやりたい。

『私と一緒になりなさいよ、仁。そうすれば椿は自由に、幸せになれるんだから』

菖蒲の言うことは正しいのかもしれない。だが、仮にそうだとしても、避けては通れない問題がひとつある。

「……椿は妊娠している。俺の子だ」

『あっはっはっは!』

菖蒲は気が触れたかのように笑い出す。仁は苛立ちを覚え「なにがおかしい」と冷ややかに問い詰めた。

『そんなの嘘に決まってる。だって私も両親もそんな話聞いてないもの。椿は仁の気を引きたかったのね。必要とされたくて嘘をついたのよ』

椿がそんな嘘をつくとは思えず、仁は眉間に皺を寄せる。

いずれにせよ、あと数カ月経てばはっきりする。妊娠が事実ならお腹が膨らんでくるはずだ。

「俺は彼女の言葉を信じるだけだ」

『でもあの子の幸せは仁の隣にはない』

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