身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
さすがの椿もお世辞だとは理解していたけれど、そこまで言われてしまうとなんとなく居心地が悪くなって、早々とこの部屋から退散しようと考えを巡らせる。

「……私、明日の準備しなきゃ。染色の授業があるから――」

「染色って、着物の?」

椿はそそくさと部屋を出ようとしたが、仁に尋ねられ足を止めた。興味を持ってもらえたことが嬉しかったのだ。

「はい! 手描き友禅を作るんです。生地に直接手で模様を書いていくんですよ。あ、この前はろうけつ染めの授業をしたんですが、熱で溶かした蝋を布に置いて染めることで色の違いがでて自然な染め上がりに――」

熱の入った椿が饒舌に語り出し、横で聞いていた菖蒲は嫌そうな顔をする。

しかし、仁は笑顔で最後まで話を聞いてくれた。

椿が通っているのは服飾系の四年制専門学校。

着物を作る技術や文化を学ぶ学科で、染めや織りなどの伝統的な技法や仕立て方、現代ファッションとしての着物デザインを学ぶことができる。

卒業後は、着物を扱う関連企業に就職を決める者、伝統工芸士を目指し工房に入る者、デザイナーとして独立する者など様々だ。

椿の場合は、実家の呉服屋へそのまま就職することになるだろう。
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