身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁は気を遣っているのか、運転しながら話題を振ってくれる。

まるで深刻なムードになるのを避けているかのようにも思えて、椿はありがたいとともに複雑な気分になった。

「店はどうだ? 菖蒲が帰ってきたんだろう、いじめられていない?」

「いじめられたりはしませんよ。ここ数日は、しばらくいらっしゃってなかったお客様も顔を見せてくださって大盛況でした」

「よかったじゃないか」

「ええ……ただ……」

菖蒲を懇意にしている顧客が戻ってきてくれたことはありがたいが、短期間で急に押しかけてきたものだから、接客の奪い合いが起こっている。

「一番困っているのは、姉がいない間に父が取り扱う着物を変えてしまったことで……」

菖蒲を目当てに来る顧客の多くは壮年の男性で、手の届きやすい価格帯の着物を買う者も多い。

以前は高価格帯の中にも比較的幅を持たせていたが、菖蒲の不在でそれらの着物の売上が下がり、父が特に高額な着物ばかり取り扱うように路線変更してしまった。

「気に入ったものがないと言って、購入を見合わせるお客様も多くて。姉は不機嫌になってしまうし……」

< 190 / 258 >

この作品をシェア

pagetop