身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
椿は今後も両親や姉の補助的な仕事をすることになるだろう。

みなせ屋に働くと決めたときは、それでかまわないと思っていたのだが。

……私にも、私なりの考えがある……。

経験を積んで理解できることが増えてきたせいか、いつの間にか椿の中には自我が芽生えつつある。

「君にやりたいことがあるなら支援する」

椿の考えを先回りしたように仁が切り出す。

「支援……ですか?」

「みなせ屋への援助は君のためにしていることだ。俺の口添えがあれば、今すぐ君を女将にすることだってできる」

椿は押し黙り、膝の上の手をきゅっと握る。

経験で両親や菖蒲に劣っているのは事実だ。どんなに椿が和装についての知識を深めたとしても、実際に工房や職人たちとやり取りしているのは父であり、一番売上を立てているのは菖蒲だ。

経験の浅い椿が下働きをするのは妥当なこと。仁の力を借りて実力以上の役割を得ることなんてしたくない。

「いえ。今の私には女将なんて不相応です」

「だが、そうやって手をこまねいていては、椿の夢はいつまで経っても実現しない」

辛辣な現実を突きつけられ、ぎょっとした椿は仁を見上げる。

仁は感情のない目でフロントガラスの奥を見据えていた。
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