身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「私の夢は、みなせ屋を手伝いながら、仁さんのもとにお嫁に行くことです」

「本当はもっと違うことを夢見ていたんじゃないのか?」

――仁さんは私になにを言わせたいの?

椿の心からの夢は、お腹の子どもを仁とともに育てることなのに。

まるで別の道筋へ誘導しようとしているかのようだ。

「君の夢に、俺は必要か?」

「……どういう意味ですか」

「俺の結婚が君の足枷になるというのなら、俺は結婚しない」

確固たる意志を持った仁の言葉に、ああそうか、と椿は視線を落とす。

仁は、椿と一緒になりたくないのだ。

菖蒲の言葉が蘇ってきて、椿の胸を締め付ける。

――『仁はずっと私のことを愛してくれているもの』――

「椿。君はまだ二十五歳だ。俺に縛られるより、自由にやりたいことをやった方がいいに決まっている」

それはまるで誘導尋問のようだった。

椿を傷つけまいという仁の思いやりなのだろうが、はっきりと結婚したくないと言われた方がまだマシだ。

「……仁さんは、私と結婚したくない?」

「違う、そうじゃない」

仁は運転を続けながらも横目で椿の様子を確認し、強い口調で言い募る。

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