身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「……だが君を尊重したい。この結婚は俺のエゴに思えてならないんだ……」

続く言葉は優しいようでいて残酷だった。すべて菖蒲が予想した通りにことが進んでいく。

――『妊娠は間違いだったって正直に話してみたら? そうすれば彼の本心がわかる』――

正直に話した結果、仁は体のいい理由をつけて婚約破棄を提案してきた。仁の心は椿にない、そう確信する。

「どうすれば君を支援できる? 今の君にはなにが必要だ」

「私に……必要なものは……」

必要なものは仁だと答えられたらどれだけよかっただろう。

しかし、椿はそこまで横暴にはなれなかった。

――仁さんはずっとお姉ちゃんを愛し続けていたんだ……。

仁と菖蒲の結婚を邪魔せず見守ってやらなければならない。

昔のように、そばで祝福することはできなくとも。

そして、今、椿が一番にやらなければならないことは、みなせ屋の女将になることでも転職でもない。

「……お金が必要です」

お腹の子どもを出産し、立派に育て上げること。それにはお金がいる。家を借りるお金、生活費に出産費用、養育費。

もちろん自身も働くつもりでいるけれど、出産前後はまともに働けないだろうから貯えが必要だ。

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