身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「堂々と受け取ってくれていい。これは投資だ。椿なら必ず、有益なことに使ってくれると信じている」

ごくりと息を呑んで、小切手を見つめる。こんな大金を預けられ、指先が震えてしまう。

しかし、このお金があればひとりでも子どもを産むことができる。

「それと、菖蒲のように突然姿を消すのもナシだからな」

念を押され椿はドキリとした。まさに姿を消してしまおうと企んでいたところだった。出産のことを仁に知られるわけにはいかない。

「明日、君のご両親に会って俺からも口添えする。婚約を延期するにしても破棄するにしても、ご両親には説明しなければ」

「……はい」

親への説明を仁がしてくれるというなら助かる。きっと仁ならうまいこと説得してくれるはずだ。

「お金はいつか必ずお返しします」

「いらないよ。投資だと言っただろう」

「いえ。返させてください。……少し、時間はかかるかもしれませんが」

「出世払いか。なら、俺は椿が夢を叶えて返しに来てくれるのを待っている」

椿はペコリと一礼して、仁の書斎を出る。

仁は家まで送ると言ってくれたが、もう時間が遅いからと断った。

< 196 / 258 >

この作品をシェア

pagetop